2020.04.04【本棚】日本の地方議会(辻陽著)

45205-1辻陽著『日本の地方議会~都市のジレンマ、消滅危機の町村~』(中公新書)

 

 新年度初日、一気に読了した。著者は、私と同じ1977年生まれ。父親が大阪府職員で地方自治に関心を持ち、研究の道に進んだという。巻末には、副知事秘書だった父親の手元にあった議員手帳の議員一覧や座席表を興味本位で眺めていたとのエピソードが収められている。私も小学生の頃、県議だった祖父の本棚で国会便覧を見つけ、ページをめくったことを思い出した。案外、政治に興味を持つきっかけは、こんなことだったりする。

 さて、本書。自治体議会の今を理解するには適材だ(※中央と地方という概念での地方議会という言葉はわかるが、本稿では敢えて自治体議会と言い換える)。時折見かける実態と程遠い空論ではなく、ほんの一握りの不謹慎な議員の行動を殊更に強調し、自治体議会や議員を必要以上に貶めるものでもない。地方自治体の仕組み、選挙の実態、待遇、日々の活動、さらにはその職責も丁寧に記している。興味のない方が、読み進められる感じではないかもしれないが、ちょっと地味で「真面目」な感じがいい。

 法律上の位置づけやそこに起因する自治体議会の弱点を記した第1章、議会の仕組みや議員の日常を取り扱った第2章から選挙(第3章)、定数や議員報酬、政務活動費など「お金」の話(第4章)と続き、第5章では議会改革の話につながっていく。大阪の堺市議会や八尾市議会等との交流が深いという筆者が、しっかりフィールドワークというか取材していることが伝わる。だからこそ、そのトーンは議員生活10年目になった私にも違和感がない。

 特に興味深いのは、まさに正鵠を射る内容の第5章(議会改革)。最近、県議会内で議論していても「議会改革を不祥事対応や投票率低下対策と勘違いしているのでは?」という発言に接することが少なくなかった。正直なところ、そのたびに少々イラっとしていた。

 本来、議会改革の流れは、1990年代から2000年代と地方分権改革の機運が高まり、国からの機関委任事務の廃止や三位一体改革等々を経ていく中で、当然自治体議会も自ら役割を高める方向で能動的にチャレンジが始まったことに由来する。つまり、議会改革の本旨は、不祥事防止策のような「対処」ではなく、自らのあり方を真剣に考える取り組みであったはずだ。第5章はそのことをしっかりと思い出させてくれ、私の心のイラつきを多少なり解消してくれた(笑)。

 その中でも総務省の各種研究会報告等を踏まえた、これからの議会のあり方論は非常に興味深く読めた。特に、議員専業ではやっていけず、なり手不足が深刻化している小規模基礎自治体議会の将来像については、著者の考え方を押し付けるのではなく、様々な可能性を提起している。現場で将来を見据え、自らの議会の今後に頭を悩ましている当事者の思いにもきちんとシンクロする内容になっていた。頭の整理にもなる。

 もう一つ。本書に価値を見出すのは、自治体議会を乱暴にまとめず、都道府県会や政令市会、大規模自治体のような「専門職化」がトレンドの議会と、小規模市会や町村議会をきちんと意識的に区別して、議論を展開していることだ。

 昨年春の統一自治体選挙の際に、NHKが全候補者を対象にアンケートを行い「議員2万人のホンネ」という特集にまとめた。「わかりづらい」と言われる自治体議員のことを大データでイメージ化させようという試みで、新鮮な着眼だったが、東京都議から村議まで大きく括ってしまったのはいただけなかった。それでは実像には迫れないからだ。国会と違い、「地方」議会は求められている役割も環境も様々という視点が欠落していたのが残念でならなかった。その点、本書はきちんとわかっている。

 さて、国政挑戦を決めた私だが、実は、まだ立憲民主党に所属する全国自治体議員団の幹事長を拝命している。この時期に本書と出会ったのも不思議な感じだ。ぜひ多くの仲間に読んでもらいたいと感じた一冊だった。特にこれから自治体議会を志そうという方、議員になってまだ日が浅いという方には「自らの立ち位置」をきちんと知り頑張るためにも必読の一冊になるのではないだろうか。

【渡辺創】