【党大会演説・小沢一郎】

 党大会での両候補の演説を掲載します。聞き間違いやタイプミスなどもあるかもしれませんので、公式版とは言えませんが、ご参考まで。

【小沢一郎候補・最終演説】

 お集まりの皆様、そして国民の皆様、小沢一郎でございます。皆様には今回の代表選挙の期間中、菅総理と私の主張をお聞きいただき、また激励していただきました。ここにまずもって心から御礼を申し上げます。また、昨年来、私自身に関わることで、同志の皆様をはじめ、国民の皆様に大変ご心配とご迷惑をおかけいたしましたことをこの機会に心からお詫び申し上げます。

 さて今回の立候補にあたっては、今日の危機的な政治経済事情の中で、果たして自分にその資質があるだろうか。政治の最高責任者として国民の生活を守るという、その責任を果たすことができるだろうか。本当に悩み、自問自答いたしました。それにも関わらず、立候補を決意したのは、今政治を変えなければもう間に合わないという私の切実な思いを正々堂々世に問いかけたかったからであります。

 思い起こせば私は27歳で衆議院議員に初めて立候補した際、選挙公報にこうつづりました。このままでは日本の行く末は暗澹たるものになる。こうした弊害をなくすため、まず官僚政治を打破し、政策決定を政治家の手に取り戻さなければならない。意思なき政治の行きつく先は国の滅亡しかありません。日本は敗戦を経ても、本質は変わっていないのではないか。若かりし頃感じたその思いは、初当選以来今なお変わっておりません。

 今日、わが国はデフレによる経済の収縮、少子高齢化、既存の社会制度の枠組みが変わるなど経済も社会も危機的な状況に陥っております。世界で最も層の厚かった中間所得層が解体され、ごく少数の富裕層と数多くの低所得層への分化が急速に進んでおります。日本が誇った社会保障制度も崩れつつある中で2年後には団塊の世代が年金受給者となる日を迎えます。今日本は、最も大事にされなければならないお年寄りがいなくなっても、誰も気付かず、また就職できない多くの若者が絶望感に苛まされ、若い母親が育児を放棄しわが子を虐待する。高度成長がいろいろな問題を覆い隠してくれた時期はとうに過ぎ去って社会の仕組みそのものが壊れています。そしてまた、日本人の精神風土も荒廃し始めていると思います。今ここで政治を見直し、行政を見直し、国のあり方を見直さなければ、もう日本を立て直すことができないのではないかと思います。

 多くの国民皆様も同じように感じていたのだと思います。昨年、我々民主党に一縷の思いを託し、政権交代を実現させていただきました。しかしもう1年が過ぎ、残された任期はあと3年であります。私たちは今、ただちにこの3年間を国の集中治療期間と位置づけ、徹底した改革を断行し実行していかなければなりません。

 しかしその改革は、明治維新以来140年続く官僚主導の政治を根っこから国民主導、政治主導に変えなければとても成し遂げられるものではありません。私の頭の中を占めているのはその思いなのであります。しかし私は官僚無用論を言っているわけではありません。日本の官僚機構は、世界に冠たる人材の集まっているところであると考えております。問題は政治家がその官僚をスタッフとして使いこなし、政治家が自分の責任で、政策の決定と執行の責任を負えるかどうかということであります。

 私は、40代でたまたま国務大臣、自民党幹事長に就任するという機会があり、国家がどう運営されているか。その実態を権力の中枢でつぶさに見続けて参りました。 そこで見た官僚主導の、例えば予算作りでは各省のシェアが十年一日のごとく、ほとんど変わることがありませんでした。官僚組織というのはそういうものであります。その中で私は、自民党の中にいながらこの改革は無理であることを骨身にしみて分かりました。だからこそ、政権与党である自民党を飛び出し、真にしがらみのない政党を作り、政権を代えるしかないという決意をもって、この17年間政治活動を続けて参りました。

 改めて申し上げます。昨年、政権交代を実現したのは、こんな日本を何とか変えてくれ、という国民の悲痛なまでの叫びだったはずであります。「この声に応えよう」菅総理大臣をはじめ閣僚の皆さん達が、一生懸命に取り組んでおられることを否定をするものではありません。しかし、政治と行政の無駄を徹底的に省き、そこから搾り出した財源を、国民の生活に返すという去年の衆議院選挙マニフェストの理念は段々隅に追いやられつつあるのではないでしょうか。

 実際に、来年度の予算編成は、概算要求で一律10%カット。これでは、これまでの自民党中心の政権と変わりません。財政規律を重視するというこういうことは大事な点ではありますけども、要は、官僚の抵抗で無駄を削減できず、結局マニフェストを転換して、国民に負担をお願いするだけのことではないでしょうか。これでは本当の意味で、国民の生活は変わりません。

 私には夢があります。役所が企画したまるで金太郎飴のような町ではなく、地域の特色にあった町づくりの中で、お年寄りも、小さな子ども達も、近所の人も、お互いが絆で結ばれて助け合う社会。青空や広い海、野山に囲まれた田園と、大勢の人たちが集う都市が調和を保ち、どこでも一家団欒の姿が見られる日本。その一方で個人個人が自らの意見を持ち、諸外国とも堂々とわたり合う自立した国家・日本、そのような日本に作り直したいというのが私の夢であります。

 日本人は1000年以上前から共生の知恵として、和の文化を築きました。我々には共生の見える政策を世界に発信できる能力と資格が十分にあります。誰にもチャンスと温もりがある、豊かな日本を作るために、自立した国民が選ばれた、自立した政治家が、自らの見識と自らの責任で政策を決定し、実行に移さなければなりません。そして霞ヶ関に集中している権限と財源を、地方に解き放ち、国民の手に取り戻さなければなりません。

 そのため、国のひも付き補助金を順次すべて、地方への一括交付金に改めます。これにより、地方では自主的なまちづくりやインフラ整備が可能になります。国、地方を通じた大きな節約効果と、そして地域経済の活性化が期待できます。また地域での雇用も生み出され、若者がふるさとに帰り、仕事につくこともできるようになります。

 また私は、国民健康保険、介護、生活保護などに対する補助金15兆円も、社会保障関係費として一括地方に交付します。これにより各地方の実情に合わせて、また地方の知恵を生かして、より効率的な福祉行政が行われる仕組みに改めます。我々に期待されているのは、いびつになってしまったこの国の形と、日本人の生活を、もう一度よみがえらせる大改革であります。国民の皆さんにご負担をお願いするのは、ここにいる皆さんが、ありとあらゆる知恵を絞って、できることすべてに取り組んでからでいいはずであります。そしてそれが昨年の総選挙での民主党と国民との約束ではなかったでしょうか。

 政府与党の政策の一元化のもと、改革を実行するのが民主党です。政府が作成した法案にあとから与党議員が意見を言う自民党と同じような事前審査の仕組みではありません。私は政府と与党議員、誰もが対等に話し合って、政策を一から作り上げる。全員野球の体制を積極的に進めたいと考えております。

 また、外交政策においては、日米関係はわが国にとり、最も重要な二国間関係であると思います。日中、日韓関係は、日米関係に次いで重要な二国間関係であり、長い歴史を踏まえ、今後、政治・経済・文化とあらゆる分野で協力関係を深めていかなければなりません。特に拉致問題については自ら対策本部長として全力で取り組みます。国際関係はまず、市民の心の交流こそが必要であるとの認識のもと、実際に私は長年にわたり、草の根交流を続けております。

 さらには日中韓三カ国の協力のもとで、環太平洋諸国を含む、東アジア共同体を推進したいと考えております。また農業、漁業の戸別所得保障制度の充実を前提として、EPA、FTAをはじめ広域的な経済連携も積極的に推進いたします。景気対策とデフレ克服にも最優先で取り組まなければなりません。日銀法改正などの制度改革や、インフレターゲット政策も視野に入れるなど、金融政策も財政政策も両面からあらゆる手段を尽くします。また人と人との新たな絆作りも取り組みます。民主党として新しい公共の考えを、積極的に取り入れ、NGOやNPOをはじめ、ボランティアや企業の社会貢献活動を積極支援するとともに、政府の持つ情報もできる限り開示します。

 衆議院の解散総選挙は、こうした改革に与えられた任期を費やし、その結果を出してからのことであります。官僚支配の140年のうち、40年間私は衆院議員として戦い抜いてきました。そしてようやく官僚機構と対峙できる、政権の誕生に関わることができました。我々は「国民の生活が第一」の政治の幕開けにやっとこぎつけたのであります。官僚依存の政治に逆戻りさせるわけにはいきません。それはとりもなおさず、政治の歴史を20世紀に後戻りさせることになるからであります。

 私は代表になっても、できないことはできないと正直に言うつもりです。しかし約束したことは必ず守ります。こう断言できるのは、官僚の壁を突破して、国民の生活が第一の政治を実行するのは、最後には政治家の志であり、改革の絆で結ばれている皆さんなら、長い時代の壁を突破できると信じるからであります。

 そして私自身は民主党の代表、すなわち国の最終責任者として全ての責任を取る覚悟があります。今回の選挙の結果は私には分かりません。皆さんにこうして訴えるのも私にとっては最後の機会になるかもしれません。したがって最後にもう一つ付け加えさせてください。明治維新の偉業を達成するまでに多くの志を持った人たちの命が失われました。またわが民主党においても、昨年の政権交代を見ることなく、志半ばで亡くなった同志もおります。この思いを忘れず、私は自らの政治生命の総決算として、最後のご奉公をする決意であります。そして同志の皆さんとともに、日本を官僚の国から国民の国へと立て直し、次の世代に松明を引き継ぎたいと思います。そのために、私の政治生命はおろか自らの一命をかけて全力で頑張る決意であります。皆さんのご支持、ご理解をお願いいたしまして、私のごあいさつといたします。ありがとうございました。