10月に行われた宮崎県議会・海外経済戦略対策特別委員会の視察報告を個人的にまとめました。ほぼ同じ内容がまもなく発行される、私の議会だより「渡辺新聞」にも掲載されています。文中に「詳細はスケジュール別表」と記しているところがありますが、この原稿内には、スケジュール表がないので、議会だよりの画像内を参照頂けると幸いです。
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
宮崎県議会「海外経済戦略対策特別委員会」の一員として10月12~15日の「香港・上海調査活動」に参加しました。県議会の公式な海外調査は約10年ぶりで、新聞・TVでも報道されましたので、この機会に香港・上海での活動をレポートします。【渡辺創】
◇海外経済対策特別委とは?
県議会は、集中的に調査・研究すべき内容や部局横断的に取り組むべきテーマを扱う特別委員会を毎年設置しており、今年度は海外経済戦略に加え、みやざき創生、観光・スポーツ3特別委が活動しています。
「海外経済戦略特別委」の委員は12人。人口減少が進み、国内市場が縮小する中で県産農畜産物の消費先を確保することが必要(=輸出促進)との問題意識を共有しています。さらに県内企業の海外進出に加え、逆に海外からの観光誘客や投資をいかに進めるかということも重要テーマです。この課題認識は、県が今年度から推進する「みやざきグローバル戦略」と連動しており、激しさを増す自治体間の競争に上手く対応できなければ、将来的な県勢の浮沈に影響します。
そこで今回、宮崎にとって重要な輸出先であり、アジアの窓口として県事務所も開設済の「香港」「上海」の視察が決まりました。ちなみに特別委の調査研究は、来年2月議会で報告書として議決されます。
◇県産品をいかに売るか!
香港到着直後(※スケジュールは別表参照)に訪問した「一田百貨」は、繁華街にある複合施設内のスーパー。午後9時過ぎの視察でしたが、店内は家族連れでにぎわい、「経済的余裕のある層」(香港駐在員)に向けた店舗という雰囲気。香港は、日本の農産物輸出先として11年連続の首位であり、店頭には県産のサツマイモや乳酸菌飲料など「日本産商品」がずらりと並びます。
陳列棚を眺め、意外だったのは「納豆」。国内では生産地イメージのない「愛媛県産」(ちなみに愛媛県の納豆消費量は全国38位)がコーナーを席巻。この光景には戸惑いましたが、日本産品を取り扱う「味珍味有限公司」のデニス・トクアキ・ウー社長によると「香港の消費者にとって日本産は安心の裏付けだが、リンゴなどの一部商品を除けば生産地までは意識されていない」とのこと。早期に香港に商品を売り込み、一度シェアを確保してしまえば、その強みは続くようです。
そのためには、香港人の好みを踏まえ「香港で売れる国産品は何か」との視点で市場に飛び込み、「○○と言えば、この商品」というナンバーワンになることが重要。パッケージ等も大切で、香港で好まれる金色を多用したパッケージで成功したイチゴもあるそうです。
◇宮崎牛の戦略
一方で、生産地のブランド定着にこだわった販売戦略を続けているのが「宮崎牛」です。宮崎経済連は4年前に香港事務所を開設し、現在は年間約30トン(昨年度)を輸出。しかし、鹿児島県産などが目立つ香港のスーパーで宮崎牛を見かけることは稀です。その理由は、高級飲食店にターゲットを定め、ハイエンド(最高級)の客層に丁寧な料理と組み合わせ、付加価値をつけた形で販売する戦略をとっているためです。高い店では客単価が2万5千円近くになる飲食店もある香港で、宮崎牛認定レストランは現在7軒に広がっています。
◇インバウンドの拡大
視察2日目には、香港経済人との意見交換会も開催。この場には、日本へのパッケージツアー最大手「EGLツアーズ」の袁文英社長も出席されました。宮崎~香港便の開設にも貢献し、「みやざき大使」も務める人物。大変気さくな方ですが、大きな影響力を持っており、各自治体の関係者は香港での「袁社長詣」を欠かせません。私もお会いするのは3度目でした。
宮崎~香港定期便の80席を常時確保する袁氏は、宮崎を含む九州ツアーが順調なことを明かしたうえで、宮崎の特徴を「観光資源は強いが、香港人が大好きな『買い物』というポイントが弱い」と大きな課題を指摘。香港で流行するチャペルでのウエディング写真に対応できる施設や、部屋に露天風呂がある高級旅館などを整備すると更なる香港からのインバウンド(訪日旅行)が望めるとのアドバイスもありました。
香港からの訪日客は年間152万人。香港人の5人に1人が毎年訪日し、その9割がEGLのようなツアー利用者です。東京や京都は既に経験した層が地方に流れています。「宮崎で宮崎牛を食べる」というような付加価値をつければ、香港での県産品消費拡大につなげるプランも考えられそうです。
◇「中国」との新しい関係
上海では、現地県人会との意見交換や宮崎からの進出企業視察などを行いましたが、最も興味深かったのは、「上海市国際貿易推進委員会」会長との意見交換でした。同委員会は、中国の経済界や貿易界の代表者や企業・団体で構成される対外貿易の民間機構の上海版であり、会長は中国有数の貿易都市・上海の経済に深く関わる人物です。
会長は、習近平体制で進める「一帯一路構想」に沿った話を展開。同構想は、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる「シルクロード経済ベルト(一帯)」と、中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島の沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード(一路)」の二つの地域で、中国主導によるインフラ整備、貿易促進、資金往来を促進させる経済構想のことです。「投資される側」から「投資する側」に変貌する中国を強調し、これからの中国は「対外投資」を大きな柱にしていくことを窺わせました。
「これまでは安い人件費が日本から中国への投資を呼び込んできた。人件費も高騰する中で旧来のスタイルは崩れつつある。しかも一帯一路構想を掲げる今、日・中が今後もウインウイン(双方が得をする)の関係を築くカギは?」と思い切って私見を交え率直な質問を投げかけてみると、「双方に利益を生む農業での技術連携」との返答。まだまだ議論したいところでしたが、時間の制約が残念でした。
◇視察を終えて
宮崎の地理や交通・物流面の環境を考えた際に、本県が市場確保を図るべき中心的地域は、やはり香港と考えるのが妥当です。そこに、輸入規制等の制約があっても人口集中国・中国の窓口としての上海、観光交流面の大きい韓国、台湾など東アジアでの戦略的展開はやはり重要です。さらに東南アジア・イスラム圏までの視野を広げれば、シンガポールも大きな可能性を秘めています。
しかし、該当地域の政治・経済は大きく動いています。その中でいかに商環境を把握し、チャンスを見出せるかが今後のカギと実感しました。県行政の役割は、県内企業が海外にチャレンジしようとする機運醸成と、一歩を踏み出す際の共通基盤の確保(物流ルートや現地チャレンジオフィス等)が中心です。民間の動きを行政がどうサポートするのか。その点を意識しながら、今回の調査の意義を高めて参ります。